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2004.08.26

生きものの記録 黒澤明

核に恐怖する主人公の老人、中島喜一を三船敏郎が演じています。
DVDの予告編を見たときには主人公が三船敏郎とは、気が付きませんでした。

黒澤明監督 生きものの記録 1955年作品です。
三船敏郎は黒澤作品には数多く出演していますが、ほんとうにさまざまな役を見事に演じています。

彼は水爆に対する恐怖から家族とともにブラジルへ移住しようとしています。
自分が築いた工場を閉鎖して、しかも自分の身内以外にも愛人の子供や家族まで連れて行こうとしています。

しかし彼の家族たちで賛成する者はほとんどなく、やがて家族から裁判で訴えられるまでになってしまいます。三船敏郎の演技は核に対する恐怖を強く訴えてきます。

裁判所の参与員をやっている歯科医の原田(志村喬)は、唯一彼に共感するのですが、、、
思い余った中島は自分の工場があるから家族が振り切れないものと思い、工場に火をつけます。
ついに精神病院に入れられてしまった中島は、、、、、
救われないラストの雰囲気はロアルドダールの作品などにも似ていて後の円谷作品のウルトラQなどにも影響を与えたのではないでしょうか。

脚本の一人に橋本忍がいますが、彼が後に脚本を担当した日本沈没でも、小林桂樹演じる田所博士は日本にやがて災害が起こることを警告しますが、世間は博士の警告を受け入れずに誇大妄想扱いします。
本当に恐ろしいことには目を向けず目の前の安穏とした状況をのみ守ろうとするのは一般常人の恒なのでしょう。
田所博士に賛同した日本沈没に対処するD計画の所員中田(二谷英明)が、もし日本沈没が起きなかったらD計画の人間はどう思われると政界の黒幕の渡老人(島田正吾) に聞かれる場面があります。
「それが起きなかったらここにいる者は、全員ほら吹きでペテン師、世間からは狂人扱いされるでしょう、しかしもしそれが起きたときには何もしないよりは多くの日本人が助かるはずです」
田所博士の予言は的中し日本は沈没しますがD計画のおかげで多くの日本人が救われます。
総理からあなたのおかげで大勢の日本人が助かったと言われる博士は、それが良かったのかと思いながら沈んで行く日本に残ります。

生きものの記録の中島はついに誰からも信用されずに、狂人になってしまいます。
そして彼の心配していることが万が一現実の事となったときに周囲の人間は彼を認めることになるのでしょうが、中島がその事を知ることはないでしょう。

野良犬(1949年)のときの若々しい三船とは別人ですっかり老人になっています。
原田が息子(加藤和夫)と会話する歯科医院では窓の外に市電が走り(パンタグラフのみ通過するのが見えます)その向こうの建物には窓の中に人物が動いているのが見えます。これはセットでの撮影と思いますが、ほんの一瞬の場面なのに凝った画面を作っているものです。
中島の町工場が火事で焼け落ちた場面では工場がまるごとほんとに焼け跡にする徹底ぶりです。

はじめ加藤和夫が出てきた場面では有島一郎と見まちがえてしまいました。
加藤和夫は日本沈没でも総理(丹波哲郎)の秘書官三村役で出演しています。
また洋画の吹替えもやっていて、海流の中の島々1977年アメリカ(ヘミングウェー原作)がTVで放送されたときには主人公のトム(ジョージ・C・スコットでモデルはヘミングウェー自身)の声をあてていました。加藤さん本人は細身の方ですががっちりしたジョージ・C・スコットにぴったりの渋い声でした。


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Comments

生き物の記録は好きな映画の一本です。
池袋の映画館で3回ほど見ました。
あれは、暑い夏の出来事でした。

次回は…どん底、なんかが話題になるのかな?

Posted by: コタヌキ | 2004.08.27 at 06:30 AM

ブラジルでちょうど、
黒沢監督の映画のDVDが発売されたばかりなのですが、
知らない作品でした。

Posted by: Sao Paulo | 2004.08.27 at 07:17 AM

コタヌキさん、いつもコメントいただきありがとうございます。
黒澤作品をたくさんご覧になっているのですね、
次回は酔いどれ天使です。

Sao Pauloさん、ブラジルからのコメントありがとうございます。この作品は私も今まであまり気に留めていなかったのです。ブラジルに入植し成功した役で東野英治郎(初代水戸黄門)が出ています。

Posted by: Chidori | 2004.08.28 at 09:42 AM

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